1957年、江藤淳は「生きている廃墟の影」で商業文芸誌デビューし、石原慎太郎、大江健三郎、開高健などの同世代の俊秀とともに「文壇」に旋風を捲き起こす。
爾来40年、常に第一線で戦い続けた強靭かつ感受性豊かな批評文。
《神話的状況を対象化することは、われわれが人間になり、歴史を人間化することに連続するであろう。》
「神話の克服」より
◉1957年、商業ジャーナリズムにデビューした江藤淳は、文学の起源に遡る原理的な思考を武器に、戦後の文学状況を一変させた。敗戦国日本が立脚する虚妄を明らかにしてゆく「生きている廃墟の影」「奴隷の思想を排す」「神話の克服」などの論争的批評文等々、20代ならではの自由闊達な精神が躍動する。
《嘆きのうたのかわりに勇ましい海賊たちの唄をうたおう。》
「海賊の唄 序」より
◉「60年安保」の直前、改革派としてジャーナリズムを席捲した時期のブリリアントな批評文を収録。日本近代文学全体の見直しを迫る「現代小説の問題」、同窓生の中央公論新人賞受賞者・福田章二の「ひとりよがり」批判によって批評家としての立場を鮮明にした「ある新人作家について」等々、〝多方通交路〞の魅力が全開。
《われわれは、良心と心の「自発性」をわが胸に取り戻し、言葉の「天然自然の働き」の涸れざることを信じて、生きなければならない。》
「ユダの季節」より
◉「ユダの季節」は「保守文化人」仲間を全否定し「週刊文春」で特集された危険な論文。その真意は、1983年3月1日の小林秀雄の死にあたり、あやふやな言葉でやり過ごそうとする堕落したかつての知己への絶望の表明だった。小林の精神に殉じ、孤高を撰んだ批評家の精神が胸を打つ。
《「声」を回復する以外に、戦後の言語空間に仕掛けられたあの人為的な禁忌の呪縛から自由になる道はないのかも知れない。》
「自由と禁忌」より
◉なぜ、丸谷才一『裏声で歌へ君が代』は、発売直後に朝日新聞の一面で取り上げられたのか? 文芸ジャーナリズムの不自然な動向から、仲間褒めが横行する文壇の倫理の喪失と弱体化を炙り出してゆく。文学は、そして日本はもう終わってしまったのか? 痛切な同時代文学批判。
《人間が生きていれば、これは多少とも全身で生きているのである。人々の間にまじっているかぎり、政治的、社会的問題とも全く無縁ではいられない。》
「あとがき」より
◉「60年安保」の渦中、「若い日本の会」代表だった時期の「転向」をリアルタイムで記録することになった同時代批評の集成。「戦後文学」にここまで早く見切りをつけた書き手はいない。「政治と文学」の狭間で揺れる心情を正直に告白する若さが眩しい。古本市場や図書館でも稀少な貴重本である。
全巻……………………1,200円(税込)
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