Kindle版「江藤淳全集」編集担当の風元正さんの「編集子独言」です。
第10巻『全文芸時評Ⅰ 昭和三十三年〜昭和三十六年』はKindleにて発売中です!
「時評」は「事件」だ!
Kindle版「江藤淳全集」第10巻『全文芸時評Ⅰ 昭和三十三年〰昭和三十六年』が発売になりました。初期江藤の再評価というテーマで刊行を続けてきた次は、本全集の目玉がついに登場します。20年にわたって、お休みを挟みつつ、約3000枚書いた江藤淳の主戦場である新聞文芸時評の集成です。ただ、もともとご本人の全集の構想には入っていないもので、上下2巻で刊行された7500円の小部数絶版本でもあり、boidが刊行しなければ、このまま埋もれていたことでしょう。国家的文化事業(笑)です。
遠い昔、私も一応通読はしたのですが、あまりに長く正直、流し読みでした。編集のために精読し、もうびっくり。すごさの一端しかわかっていなかった。これだけ真面目に、毎月毎月、玉石混交の文芸雑誌を読み込んで目ぼしい作品にはみんな言及していたのか、と思うと、それだけで頭が下がります。しかも、江藤さんはあら筋を書くのがむっちゃ上手なので、読んだ気になってしまうんです。評価も公平で正確。仲間褒めなしです。
第Ⅰ巻、永井荷風、正宗白鳥、谷崎潤一郎、佐藤春夫、里見弴、久保田万太郎、川端康成などという老大家が健在の上、同世代の大江健三郎、石原慎太郎が躍進し、三島由紀夫の変貌や「風流夢譚」事件が起こる賑やかな時代が舞台です。第一次戦後派や「第三の新人」もまだ若い。血沸き肉踊る時評を読みながら、戦後の日本人は、ずいぶんたくさん、いろんな趣向を凝らした小説を書いたものだなあ、という感慨が湧いてきます。
全6分冊で出す予定ですが、「活きた文学史」というような平凡な言葉で形容したくないです。半年間、もっといい言葉がないか、頑張って探します。みなさん、ぜひ、ご一読下さい。
風元 正(編集)
Kindle版 江藤淳全集
全巻1,200円(税込)
Amazon内Kindleショップにて発売中
《江藤淳は、未来の批評家だった。》
――たったひとり、「戦後」の虚構性に挑みつづけた批評家の思考は、今も生々しく同時代日本を照らし出している。
ラディカルな批判精神を貫いた稀有な精神の軌跡に新たな光を当てる画期的な電子版全集!
第10巻『全文芸時評Ⅰ 昭和三十三年〜昭和三十六年』
1958年から1978年まで、全3000枚。批評家・江藤淳の主戦場は、毎月書かれる厖大な小説をリアルタイムに読み、鮮やかな手腕で評価してゆく新聞「文芸時評」だった。それはそのまま、「文芸誌」黄金時代の生きた文学史でもある。6分冊にして出す第Ⅰ巻は、大江健三郎・石原慎太郎との伴走、深沢七郎「風流夢譚」事件、三島由紀夫の変貌など、戦後史を画期する文学的なトピックに充ちた賑やかな時代についての、手に汗握るようなドキュメントである。